日本画の基底材料の代表的なものは和紙や絹本がありますが、古来より板に描くこともなされていました。板絵と言って思い出すのが、京都の養源院にある俵屋宗達筆の杉板絵(重要文化財)で、私の好きな板絵の一つです。
先日、ご注文があったお客様のご自宅の和室(本床)に飾る板絵の納品に行ってきました。
今では珍しくなった大きな日本家屋、12畳の和室・・・書院造に作られた本床の袋棚の地袋(袋戸)の注文でした。
袋戸を杉板に変えてそれに作画し、漆の枠をはめ込みました。
板に絵を描くには下地の処理に時間がかかり、絵具が剥落しないようにアク抜きや捨て膠という剥落留めを施さなければなりません。
さらに、板目を大切にして描くので失敗は許されないとても根気と集中力の必要な作業となりました。
>>「月下遊蟲図」
今回の作品はヤマガシュウ(山何首烏)を天然の群青で描き、その間にトンボ・カマキリといった縁起のいい虫(勝虫と言われる)をあしらい、銀箔の月と併せてデザインしました。
天然石の特徴を活かし、群青(アズライト鉱石)のもともとの岩石の色味の違いで様々な青色を使って描いています。
トンボはプラチナ泥を使っています。
全て天然の絵具や材料で作られた板絵はこの先長く楽しんでいただけるように、長く保存される技術を駆使して描きました。
完成までとても苦労した作品でしたが、納品してお客様に喜んでいただいた姿を見たら、それだけでこれまでの苦労が一気に晴れました。